第28章 女の子だって
翌日。しのぶの祈りが届いたのか、更に回復をみせた琴音。浮き上がっていた肉腫がだいぶ引き、呼吸も安定してきた。皆がほっとした。
ただ、この数日全く食事をしていないため体力が落ちてしまった。点滴で栄養をとる。
「琴音さん、体調はいかがですか」
「アオイちゃん、だいぶいいよ。やっと動けそう。はぁ、今回は流石に死ぬかと思った。気持ち悪さも軽くなってる」
「それはよかったです。ですが、しのぶ様は返って心配が増したとおっしゃっています。琴音さんはすぐに無茶をするから、と。安静にしていてくださいね」
「わかってるよ」
琴音が疲れた顔で笑った。
「しのぶちゃんは今日は居ないの?」
「はい。出られています」
「そっか」
珠世の所へ行っているのかな、と思う。
「今日、もし水柱様がいらしたらどうしますか?お通ししてもいいですか?」
「そうだね。うん、通してくれるとありがたいな」
「わかりました」
琴音はアオイに湯と手拭いを頼んだ。義勇に会うのなら、少しは体を綺麗にしておきたい。
しんどい状況下でも、自分は女なんだなと思った。
点滴の合間に身体を拭いて、新しい入院着に着替える。
たったそれだけのことで、何キロも全力疾走したくらいに疲れてしまい、ベッドにころんと横になった。
目を閉じると、体がさっぱりしたこともあって、そのまま寝てしまった。
不意に、気配が揺れて琴音が目を覚ました。
「……夜月」
「と…みぉか……」
寝起きの悪い琴音はぼんやりとしていたが、ベッド脇の椅子に義勇が座っていることを認識した。
どうしようもない程の愛しさが込み上げる。そっと手を伸ばすと、義勇は指を絡めながら握ってくれた。
「ご……めん」
「何に対してだ」
「いろいろ……。帰れなくて…ごめん」
「ああ。寂しい」
義勇は素直に自分の気持ちを述べた。琴音の手を握りながら体を寄せて、髪を撫でる。端正な顔が少し悲しげに歪んだ。
「こんなに……」ボロボロになって、と言いたそうにした口が、ぎゅっと閉じられた。義勇は無言で彼女を撫でる。
義勇に撫でられるのが心地よくて、琴音は微笑みを浮かべながら目を閉じた。