第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「……1人だ、1人のみ生贄の護衛を許そう。そこの一番背の低い女子だ」
村長が指したの先にいるのはなずな。
1人ならたとえ儀式が妨害されようと村人で対処できるとでも言いたげだ。
「いえ、人選はこちらで……」
「分かりました。それで構いません」
伏黒の断りの言葉に被せるようになずながハッキリと返事してしまう。
彼女の思いもよらない発言に驚く3人。
「ハァ!?ちょ、なずな……!」
「決まりだな。では、護衛の者は正午にここへ来るように。生贄がいる殯宮(もがりのみや)まで案内しよう」
納得いかない野薔薇が思わず声を上げたが、村長は薄く笑い、この話は終わりだと手を叩いた。
更に正午まで公民館は閉鎖すると言われ、追い出された形になった4人。
周囲に誰もいなくなったのを見計らって野薔薇がなずなの言動を咎め始めた。
「なずな、何であんな返事したのよ!?」
「これ以上あの村長さんに不信感を抱かせるわけにはいかないって思ったの。多分村長さんはあれ以上は譲歩してくれないだろうし。それに私だけでも生贄の人に近づければ、皆がこっそり入れるように内側から手引きできるかもしれないし」
昔から呪霊を土地神として祀る村。
村人達にとっては生贄は大昔から続く当たり前の文化なのだ。外からやってきた自分達は最初から信頼感ゼロどころか、マイナスでのスタート。
村長に会うまでの道すがら、その空気を感じていたため、少しでも譲歩が引き出せた時点で承諾すべきだと思った。