第31章 断章 Happy Merry Birthday
なずなの受難はこれだけに留まらない。
12月に入り、なずなは次なる目標であるプレゼント選びに取り掛かっていた。
迷子にならないように細心の注意を払いながらいろいろな店を回り、ようやく見つけたのが落ち着いたデザインのマフラー。
恵くん、こういうデザインのでも使ってくれるかな……?
普段の私服は黒で統一されていることが多いので少し心配だが、黒に映えそうな色合いで派手な柄や目立つデザインという訳でもない。
何より一目で「これだ」と思った。
緊張気味に会計へ持っていき、プレゼント用のラッピングを頼む。
「どなた宛のプレゼントなんですか?」
「す、好きな人……あ、恋人の、です」
店員からにこやかに尋ねられ、なずなは顔を赤らめてと答える。
咄嗟に好きな人と答えてしまいそうになったが、もう交際しているので恋人に言い直した。
初々しい様子で待つなずなに店員も思わず顔を綻ばせて、「サービスしますね」と腕によりをかけてラッピング。
しかし、出来上がったものを渡されたなずなは絶句した。
緑を基調とした落ち着いたデザインの袋にワインレッドのリボン。
……ここまではまだ言い訳できる。
でも、袋には金色の流れるような筆記体で“Merry Christmas”の文字が……!
プレゼントはプレゼントでも、これはまごう事なきクリスマスプレゼント
誕生日プレゼントって伝えるのを忘れてしまった!!
せっかくサービスしてもらったのにやり直してもらうのは非常に申し訳ない。
「あ、ありがとうございます……」
結局なずなはクリスマスラッピングされたプレゼントを抱え、店を後にするしかなかった。
ど、ど、ど、どうしよう……!?
包装紙とリボンを買ってラッピングし直す?
……ダメ、店員さんが頑張ってくれたラッピングを外すなんて私にはできない……!
じゃあ、今から別のものを探す?
でももっといいものなんて見つけられるかな?
ゆっくり買い物できる日もあんまりないし……
この上に更にラッピングするのは……
渡す時はごまかせるけど、結局開けたらこのラッピングが出てきちゃうよね……
悶々としながら時間だけが過ぎていく。