第8章 空
「誰かが見とるよ、いうんはずっと言われて育ってん」
『………』
「そんなん別にどっちでもええ、神様のためにやっとるんと違ってんけど。
ちゃんとやるんは、気持ちええからな、しみついとる」
『………』
「まぁそうやな、やから、空から見られとるいうんも別段そこには何も思わんかったな」
『………』
「でもそれで安心するいうのは、よぉわからん。
安心するんは、ちゃんとするからやないの?」
あぁ、信介さんには、ちいさなつぶになって見えなくなってしまえばいいのに、ってなるような、
そんな後ろめたいことがきっと、大袈裟ではなく一つもないんだ。
だからきっと伝わらない。
私が空から見られてることで得る安心感なんて。
後ろ向きすぎて… というかその考えがそもそも、ちゃんとしてない。
空から見られてると私は私の意地悪や嫉妬も見えなくなって地面に溶けてるんじゃないかなって。
そう思うと安心するなんてそんなの、後ろめたいこといっぱいですって自己紹介してるみたい。
『…ちゃんとしてない部分もぜーんぶ見えなくなるくらい、高いところから見てもらったら。
汚い部分もぜーんぶ溶けて、地面になって見えないかなぁって』
「………」
『そんな浅はかな期待による、安心です』
自嘲するように笑ってみせたけど、うまくできただろうか。
ほんとは全然、笑えない。
これこそ、あれだ、溶けて無くなってしまいたい。
そんな風に思ってしまう。
信介さんが眩しい。
「はは、そらええなぁ」
『え?』
「ええやん、救いようのある話やん」
『え?』
「いろんなやつがこの世にはおるからな」
『………』
「そんな風に俯瞰して見たら、いろいろ大らかになれそうやなぁ」
私はいつも空から自分が見られることを考えていたけど、
自分が見る側になってる、信介さん。
その真逆な発想の転換に、はっとして。
それこそ、救いようのある話かもしれないって、根拠はないけど、そう、思った。