第1章 はじまり
昼休み。
隅のベンチに一人座る。
窓から見える空の色はなんだか薄暗く、冬の冷たさを映し出したかのような色だった。
まるで私の心の中みたい。
なんて情緒的なことを考えてみたけど
いやいや。
この程度だったらすごくいいじゃんって、すぐに思い直した。
薄暗い?
はっ
真っ暗じゃん。
「よっ。これ」
突然目の前に現れた黒尾さんは、湯気がたつカップをこちらに差し出している。
「あの、これ」
「ん、ミルクティ。いつも飲んでるよな?」
「あ、はい」
「はい。どうぞ」
「……ありがとうございます。いただきます」
なぜか黒尾さんからカップを受け取って、まだ熱いミルクティをすすると
なんだか少し、目が覚めるような気分になった。
「で。何があった?」
何が?
「何も、ないです」
「何もないのに、泣いた?」
………バレてる。
でもまぁ、昨日あれだけ泣いてたからな。
「あ、わかりますか?結構いい感じに隠せてると思ってたんですけど」
ハハッて笑ってみたけど
たぶん、上手く笑えなかった。
「昨日、ちょっとショックなことがあって。
だけど、大丈夫です」
なんでもないですって、軽く流さなきゃいけないのに、顔が引きつってるのが自分でわかる。
「……突然ごめん。
困らせたいわけじゃなくって、ただ心配だった」
「いや、こちらこそ心配かけちゃってすみません。仕事はちゃんとします。
……お手洗い、行ってきます」
「ん。ほんと、なんかあったらすぐ言いなさいね?」
「……ありがとうございます」
じゃあって軽く頭を下げて、その場から逃げるように去った。
また一人になって、少しぬるくなったミルクティを口に含むと、今度は泣けてきた。
ただ、あと10分で昼休みは終わっちゃう。
ぐっと飲み干して、歯を食いしばって。
トイレの鏡の前で笑顔を作って
また、いつもの自分を貼り付けた。