第60章 5月中旬(海.2)
「………じゃあ。アキくん、今日なんで
ここの海に連れてきてくれたの?」
「ん~?ネットで調べたら、いつでも駐車場が停めれるって書いてあったから」
あ~〜〜、なるほど
納得
偶然だった今日この場所が恨めしかったけど
ストンと
「そういうことか~」
素直な感想
「なにが?」
「ここね。最初の彼氏が入籍したのを知った日、
泣きじゃくってどうしようもない私を
元彼が連れてきてくれたところなんだ~。
で、お付き合いが始まった場所」
「…………まじか」
「ね?ビックリするよね~。
なんでアキくんここに連れてくるの?!嫌がらせ?!
って思った(笑)」
「…………言ってくれたら、移動したのに」
アキくんは、いつも優しい
「ありがと。だけど、特別な場所だって
思いたく、なかったから」
「………特別な場所じゃ、なくなった?」
アキくんの右手に少しだけ
力が入ったような気がした。
「んーーーーー」
今日ここにきて、星空を見上げて
今まで気づかないフリをしていた、
気付きたくなかった気持ちに気付いてしまった。
だけど、それを受け入れよう。
と、
そう、思った。
だけど
それを言葉にしようとすると、
少し、体が震える。
波の音だけが聞こえる。
なかなか話出せない私を
手を、繋いだまま。
アキくんは黙って待っていてくれる。
ひとつ
ふたつ
みっつ
深呼吸
体の中いっぱいに、
懐かしい潮の香りが広がる。
「…………ふぅーーーーーーー」
そしてそれを、
大きく吐き出して。