第55章 3月
久しぶりに名刺が補充された名刺入れを手に持って
慣れないクライアント先の会議室で
上司と一緒に先方の到着を待つ。
今の業務に就いてから
ひたすらクライアントとのやりとりばかりだったから、
初めましての顔合わせと
その場で行われる名刺交換はかなり久々。
その少しだけピリッとした空気に、自然と背筋が伸びる。
ブランドの周年記念の雑誌とのコラボ企画
まさかまさかの
私が出した企画を採用してもらった。
就活の時、何かを生み出してみたいと思ったことがあった。
だけど、私にはその才能もセンスもないと思い知らされただけで。
結局、外注先として仕事がくるような
この会社に内定をもらって。
与えられた仕事をこなす、
"生み出す" からは程遠い業務内容ではあったけど
ただ、それはそれで楽しいこともあったし
やりがいもあった。
だから、今まで続けて来れたのもあるけれど
そんな中で、半年前
去年のこの企画の提案はかなり楽しくて。
そして、私が考えた内容が
これから形になろうとしている。
なんだかとても感慨深い。
本当に。
人生で一番しんどかった6月と7月
言葉にはしなかったけど、
ずっと、どうやったらこの仕事を外してもらえるのかを考えていた。
辞める?
というか、辞めたい。
いや、もう辞めよう。
…………限界だ。
実は毎日、そんなことを思っていた。
だけど、私が辞めたら
別の人が引き継ぐことになるだろう。
そしたらきっと
その人が私と同じ、辛い思いをするかもしれない。
そう思うと、自ら辞めるという選択はできなかった。