第29章 無事に(報告)
「黒尾さんでも、心配になることがあるんですか?」
「俺は、お前と離れることが心配」
「え?」
「だって、今は会社でも会えるし
休みの日はこうやって一緒に過ごして。
福岡って、遠いナ~~。今みたいに会えねーなぁ。
って思ってるんだけど」
「あぁ」
思わず気が抜けた声が漏れてしまって、
慌てて口をギュッと結んだ。
「えーーーーーー。お前は寂しくないの?」
「寂しくないことは、ないです」
だけどそれ以上に
「なにその微妙な感じ」
「いや、誇らしさしかなくって。今やっと、
今みたいに会えないのか~。そっかぁ。と思っています。
………そっか。会いにくくなっちゃうのか」
それはちょっと困る。
依存しているつもりはないけど、ここ数ヶ月
どこを見ても、だいたい黒尾さんがいる。
「奈々、遠距離って出来る?」
「まぁやったことは、ないですよね~。黒尾さんは?」
「俺も、ねーなぁ」
「じゃあ、二人一緒に初めてですね!」
「………そうだなぁ」
振り向くと、呆れたように笑う黒尾さん。
「今、私は何に呆れられているんですかね?」
「んーん。感心してんの。
あと、取り越し苦労だったなぁって。自分に苦笑してる」
……………?
「どういうことですか?」
「一番最悪なパターンは、別れるって言われるかもって心配してた」
「………なんでそうなるんですか?」
「世の中には、距離が遠くなると
そういう決断をする人もいるみたいなので」
「…………なんか、心外です」
「え?」
「私が黒尾さんから離れるって思ってたんですか?」
「まぁ、そういうことに
なる。のか?」
本当に心外だ。
「私が黒尾さんから離れる時は、黒尾さんが浮気した時ですよ」
「それはねーなァ」
「じゃあ大丈夫です。
でも、黒尾さんが浮気したってことは、黒尾さんが私から離れてるから。
ということは、今のところ私から離れていくことはないと思います」
「俺もそんなことしないし」
「そうだといいです」