第21章 バレンタイン(前日)
ふわりと体が浮いて、思わず黒尾さんの首元に腕を伸ばす。
「えっ?えっ?!」
いわゆる、お姫様抱っこ。
記憶にある限り、ある程度の年齢以降
誰かに抱き抱えられたことなんてなくて。
「え?!ちょっと?!怖いです!」
「だいじょーぶ。
寝室こっち?お邪魔しまーす」
「あ!電気!」
「あ、危ない危ない」
怖がりながらもどこか冷静な私を抱えたまま、
忘れてたって言いながら、回れ右をして電気を消す黒尾さん。
「てか重くないんですか?重いですよね?
腰痛めません?早く下ろした方がいいと思います?!」
「だーいじょうぶだから。
黒尾サン、これでも鍛えてるし」
「………知ってます」
黒尾さんの筋肉質な体を思い出して、勝手に照れた。
「なーに想像してるの?(笑)」
げ。バレてる。
ニヤニヤした黒尾さんと目が合う。
「………なにも想像してません!」
目をそらす私は、そのままそっとベッドに下ろされて
そのまま黒尾さんが私に覆いかぶる。
「奈々の部屋でイケナイコトするの、ちょっと興奮する」
「イケナイコト、なんですか?」
「んーん。違った」
唇が触れて、いつも頭を撫でてくれる手が
今日は脚に。
くすぐったい。
いつも見ている、見慣れた景色の中に黒尾さんがいる。
普段1人だけの音しかしない部屋に
シーツの擦れる音
そして
2人分の甘い声が漏れる。
今日は私がリードしたい!なんて一瞬思ったけど。
そんなことを言う前に
今日も黒尾さんに、溺れさせられた。