第6章 ある夏の夜※
マンションへ帰ったナナは
明かりもつけないまま
リビングのソファで膝を抱えていた
どれくらい
時間が経っただろう
鍵の音がして
響也が帰って来た
立ち上がったナナの方へ
響也は真っ直ぐに歩いてきた
『……響也………ゴメンなさい……勝手にお店に行ったりして…』
響也は俯いているナナの頬に手を当て
上を向かせた
口紅を乱暴に拭ったような跡が
口元に滲んでいた
「……オマエが謝ることない………無理に連れて行って悪かったって……愛子さん…言ってたよ…」
『……でも……』
再び俯いてしまったナナの頭を
響也は優しくポンポンと撫でた
『…………や…めて…』
ナナは震える声で言った
「………ナナ…?」
『……そんな風に優しくしないで…………私…苦しくて心臓がつぶれそう………………響也が…こんなに近くに居てくれてるのに……誰よりも遠くに感じるの……』
「……」
『………ゴメンなさい……………これだけお世話になってて……何もかも面倒見てもらってる私が………こんな事…望んじゃいけないって…分かってる…………分かってる…けど……… 響也…には…………私の事……ひとりの女の人みたいに…思って欲しいって………どうしても…考えてしまうの…』
「……」
『………フッ……ゴメンね。………こんな気持ち…知ったら……もう…今までみたいにはいられないよね。…………私……バイトのお給料貯めて……部屋が借りられるようになったら…ちゃんと出て行くから………それまで…あともう少しだけ……ここに居させてください…』
ナナはそう言って
深々と頭を下げた
ナナの瞳からポロポロとこぼれ落ちる雫を見て
響也は放心したように言った
「……アイツの言う通りだ………ほんっっと…情けねーな…」