第21章 約束
──ドレスローザ。王宮。スートの間。
「怪我は」
「………ないっ…大丈夫、」
「そうか」
突然現れたその人は、ちらりともこちらを見ない。あたしに背を向けて大きな刀を構えている。
そんなに緊迫しているように見えないけど、目の前の相手から僅かにも気を逸らそうとしないから、彼がいつもよりかなり警戒していることが分かる。
一方、そんなローと向かい合って立つ男──ドフラミンゴは相変わらず口元に不気味な笑みを浮かべていた。
「満身創痍のナリでまだ俺に勝負を挑むか。お前はもっと賢い男だっただろう、ロー」
彼の言う通り、よく見てみればローの身体は万全とは言えそうになかった。
ドフラミンゴが知ってるということは、もしかしてさっきもすでにこんな状態だった…?
全然、気づかなかった。
自分がどれほどドフラミンゴしか視界に入っていなかったかに気づき、今更になってぞっとする。
ドフラミンゴはゆったりと言葉を続ける。
「SADを破壊したお前が次に何をしようとしてるか大体予想はついている…。だが、"これ"は計画外なんだろう。本気で俺を殺したいなら、たかが女1人に構っている暇はないんじゃないのか?」
「分かってんなら、てめェの方こそこんなとこで悠長にガキ泣かせてる場合じゃねェだろう。さっさと"家族"とやらを集めねェと全部手遅れになるぞ」
「なんだ?ロー、お前……、何をそんなにキレてんだ」
ローの低い声を聞いて、ドフラミンゴは一瞬不思議そうな素振りを見せる。だけどすぐに理解したと言わんばかりにニヤリと笑った。
「フフフフフ。なんだ、そういうことか」
心なしか機嫌が良さそうに見えるのが逆に気味が悪い。一体何が分かったの…?
訝しんでいると、ドフラミンゴは突然切り出した。
「ロー、俺と取引しようじゃねェか」
一度言葉を切り、相手の反応を伺うようにゆっくり唇を舐める。
「お前の望みをひとつ、何でも叶えてやる。今後一切その女に関わるなと言うのなら、それでもいい」
「…条件は」
「13年空白だったその席を埋めることだ」
ドフラミンゴが顎で示すのは、さっきまであたしの後ろにあった席。
突然何を言い出すのかと思ったら…。
ローに、ドンキホーテファミリーの席に座れって?