第18章 誘拐
──あ、夢だ。
あたし、夢をみてるんだわ。
二度瞬きをして、身体中の感覚がいつもと違うことに気づき、あたしは確信した。
近頃は夢の中だという事実を認識できるようになってきた。それもそのはず。だって、マリージョアに行ったあの日から、ほとんど毎日のように同じ夢をみるのだから。何日も代わり映えのしない内容をみさせられて、慣れない方がおかしい。
──さて、今日はどこからだろう。
昔から、思い出したようにみる夢があった。あの人が出てくる夢だ。近頃の夢もそれと大して内容は変わらないんだけど、最近の夢はその前後を断片的に教えてくれる。
あたしはどの部分なのかを見極めるために、五感を限界まで研ぎ澄ます。
ヴヴヴ──。
聞こえたのは、心臓の奥が震えるような微かな重低音。無機質で人工的な…間断なく続くそれは、何かの機械音のようだった。
音の出所を探してぐるりと見回してみるけど、それらしきものは何もない。というより、目に映るものは何もなかった。
──辺り一面、碧。
透明感のある澄んだアオ。
故郷を思い出させる色が、あたしの周りを取り囲んでいた。
…海の中にいるみたい。
想像でしかないけど、海に潜ると、きっとこんな感じなんだろうな。
あたしはのんびり考えながら、さらに注意深く耳を澄ます。
機械音を除けば、聞こえてくる音は何もない。
瞳に映るのは、途方もない碧だけ。そこに、時々思い出したように、大小の気泡がゆっくりと立ち上ってくる。
それを観察して、ここはどうやら水の中ではないらしいと気づいた。水にしては気泡の昇るスピードが遅すぎるのだ。
水よりももっと、とろみのある、液体状の何か。
──それに。