第8章 別れ
サトル side 続き
リサが居なくなってから
僕の生活は荒れてしまった
一緒に暮らしていた頃
兄のような立場で
彼女の幸せを見守ってやりたいなどと
下らないプライドを守るために綺麗事を言っていた僕は
リサが居なくなって
初めて
彼女の存在の大きさに気が付いた
彼女は
誰よりも大切で
何物にも変えられない
たったひとりの人
僕は
リサを愛していたのだった
その事実に気が付いた時
僕は愕然とした
毎晩浴びるように酒を飲み
意識を失わないと眠れなかった
至る所に残る彼女の気配に
ひどく苦しめられたけれど
もしかしたら
いつかリサがふらりと戻って来てくれるかも知れないと思い
僕はこの部屋に住み続けた
ある夜
フラつく足取りで行きつけのバーを出た僕は
タクシーを拾うために大通りに立って手を上げた
その瞬間足がもつれて
身体がグラリと揺れた
車道に倒れ込む寸前
強い力で腕を掴まれた
顔を上げると
そこにはタクミが立っていた
「……ん………タクミ……?………タクミか…?」
酔って頭の回らない僕の方を見ることもせず
タクミは厳しい表情のまま片手を上げた
タクシーが目の前に停まりドアが開くと
タクミは僕を座席に押し込んだ
「……あー……悪いな…タクミ……ありがとう…」
礼を言った僕を
タクミは憐れむような目で見下ろした
「…アイツが全部捨ててまで守ったモノって……コレかよ………フッ……やってらんねーわ…」
タクミは吐き捨てるようにそう言うと
タクシーのドアを音を立てて閉めた