第8章 別れ
サトル side
リサの荷物は
本当に少なかった
小さなスーツケースひとつに
アッと言う間に全てを詰め込むと
彼女は靴を履いた
『……それじゃ………今まで…ありがとう…』
リサはキーホルダーからマンションの合鍵を外すと
僕に差し出した
「……それは……持ってて…」
そう言った僕の声は
少し震えていた
ここを出て行くというリサを
引き止める権利は自分にはなかった
だからせめて
何かあった時に戻れる場所として
彼女に持っていて欲しかった
けれど
リサは首を横に振った
『………サヨナラ……』
リサは合鍵を玄関の棚の上に置くと
勢いよくドアを開けて出て行った
「……」
しばらくの間
放心してその場に立ち竦んでいた僕は
弾かれたように彼女の後を追った
けれど
もう
リサの姿はどこにも無かった