第12章 ※炎炎 【煉獄杏寿郎】2
「・・・しばらく元気なかったのに、教育実習始まってから杏寿郎さん元気そうだから。」
浴槽に蓋をしながら寿美は言う。
俺は顔を洗う手を止め、鏡越しにバスルームの磨りガラスを見る。人影が見えたので咄嗟にまた顔を洗う。
ガチャっとドアが開いてバスタオルを手に取って体を拭く音がする。
俺も水を止めて顔を拭き、寿美から顔がよく見えない様にする。
「すまん。俺がここにいたら出にくいだろう。」と洗面所から離れようとするとバスタオルを体に巻いた寿美が背中に抱き付いてきた。
「・・・杏寿郎さんも一緒に泣いてあげたの?」
ぎくり。鏡越しに俺の顔を見ながら寿美が問う。
「・・・おれも実習生の頃を思い出した。思うようにできなくて悔しいのは良く分かるからな。」
俺も鏡越しに寿美を見て言う。・・こんなにいい加減な事をペラペラと良く喋れるもんだ。
・・・心臓の音、静まってくれ。この位置だと聞こえてしまう。
仕方が無いので、体の向きを変えて、寿美に向き合う。そして抱きしめる。
「俺は元気が無かったか?・・・年度初めで忙しかったから・・・疲れているのかもしれないな。」
「・・ほら、寿美。風邪を引くぞ、体をよく拭くんだ。」
「・・・はい。杏寿郎さん。」
回した腕にもう一度力を込めると、静かに体を離し、「・・腹が減った。」と笑顔で言い、ダイニングに向かった。
もう鏡を見ずに洗面所を出たから、寿美がどんな顔で俺の背中を見ていたか分からない。
夕食を食べた後、食器を洗い、軽く風呂に入る。
その後は何もする気にならなかったのでテレビを見ていた寿美に「疲れたから先に寝る」と声を掛け、頬にキスをすると寝室に向かった。
体は確かに疲れているが、頭は興奮して冴えていた。