第8章 気持ち
~夢主side~
まさかここに杏寿郎がいるなんて思わなかった。
そして、百瀬さんも……
隣にいるし、近いし…
あ、ほら。今だって……手拭いてもらってるし…
やだ、私以外の女の子に簡単に触らせないで…
席に着いてからも向こうが気になって仕方なかった。
すぐに注文を取りに玄弥くんが来た。
「あ!やだ、玄弥くん♡久しぶりに~、相変わらずかっこいいね~♡」
かっこいいと言われ、頬を赤らめる玄弥くん。
それを見た駿くんが割ってはいる。
「お前なー、仮にも彼氏の前なんだから控えろよ」
「えー?これとそれは別腹ですよ~?だいたい駿だってこの間デートしてるときすれ違ったお姉さん見てたじゃん!」
喧嘩じゃないけど、ちょっとした言い争いが始まった。
「なんか…いいな、そういうの…はっきり、やきもち妬いてるって言えて…」
咄嗟にぽろっと出てしまった。
それを聞いた綾ちゃんが私を覗き込んで来る。
「陽奈子、どしたー?なんかあった…?」
綾ちゃんに相談してみよう…この間あった話を全部話してみる。
すると自分でもびっくりするくらい嫉妬心剥き出しで、怒るように話していた。勢いでカッと熱くなった身体を冷ますように、近くにあったグラスを手に取り一気に飲み干した。
全部話終わると、綾ちゃんが反対の席へ視線を向ける。
「なるほどねー。そりゃあの女が悪いね!って、あれ、いいの!?めちゃくちゃ近いけど距離が!!いくら酒の席とはいえ、あれは絶対彼女持ちにしちゃだめでしょ!?あんの女…」
綾ちゃんと同じ方向を見るとまた見たくない光景が…
恐らく手の大きさを比べてるのだろうか…杏寿郎の手に百瀬さんの手が重なって………
じわりと悲しみが込み上げて、同時にまた身体がカッと熱くなる。
あれ…?なんか…ふわふわする…?
「陽奈子…?え、大丈夫!?もしかしてこれ飲んだ?」
蒼ちゃんが空になったグラスを目の前に出す。
「ぅん?じゅーすじゃ…ない、のっ?」
「それ、俺のグレープサワーだよ!酒だよ、酒!大丈夫か?顔真っ赤だぞ!?」
蒼ちゃんの両手が私の顔を包み込む。少し冷たい手が気持ちいい…
「ん…蒼ちゃ……手、きもち…い。」
蒼ちゃんの顔が…近い……
そう呟くと同時に身体が宙に浮いた気がした。