第33章 アモローソに募らせた再会【そういうこと】
「おい、釘崎。デート切り上げて来いって……よっぽどの事情なんだよな?」
頬を引き攣らせる伏黒に、釘崎は「当たり前でしょ」と真顔で返す。
「アンタなら分かるはずよ」
長年 たった一人に片想いをし続けて来ていた伏黒なら。
とりあえず、詫びも兼ねて釘崎は優子の隣に席を移動し、伏黒と詞織を隣り合わせで座らせる。
伏黒がコーヒー、詞織がオレンジジュースを注文し、待っている間に二人に「かくかくしかじか」とかいつまんで事情を説明した。すると、伏黒がハッと目を見開く。
「つまり、“そういうこと”か⁉」
「えぇ、“そういうこと”よ!」
「どういうこと?」
挙手して首を傾げる詞織に、「なんでよー!」と釘崎は頭を抱えた。そんなに分かりにくい説明はしていないだろう。
「詞織。つまり……」
ごにょごにょと伏黒が耳打ちする。
「あ、“そういうこと”か」
「さすが……十年近く激重感情を抱えた伏黒の気持ちに気づかなかっただけはあるわ」
「これ系の話は遠回しに言っても詞織には伝わらん」
釘崎と伏黒に、詞織はムッとするも、何も言い返せない様子だった。
「えっと……確認だけど、二人は恋人同士ってことで合ってる?」
「まぁ……」
「そうだけど」
二人の返事に、優子は「よかった」と安堵した表情を見せる。
「こんな可愛い子が恋敵とか虎杖くんの彼女だったら、絶対 敵わないから……」
「ちょ……優子、そういう話は……」
「……は?」
恐る恐る伏黒を見ると、ものすごい形相をしていた。
二人の飲み物を持って来たウェイトレスも「ひっ⁉︎」と小さく悲鳴を上げ、コーヒーとオレンジジュースを置いて逃げるように去って行く。