第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
中学に上がってから、詞織を“そういう風に”見るヤツらが増えた。
詞織の身体も女性的な丸みを帯びてきて、自分たちも思春期特有の『そういうこと』への興味が強くなって……伏黒自身も、年々 詞織に対する感情がどんどん醜くなっていくのが分かった。
『好き』という感情だけじゃ表現できない、ドロドロとした得体の知れない何か。
今日も告白で呼び出されて、断って、殴られて――襲われた。
怒り狂った詩音が詞織を守るべく表に出てきた。
詩音ならばその男子生徒たちを殺してもおかしくなさそうだが、『詞織の許可なく強い力を振るえない』、『呪力を持たない一般人を攻撃できない』などの“縛り”から、自己防衛しかできなかったようだった。
もし、詩音になんの“縛り”もなかったら、とうの昔に、ここら一帯は血に塗れ、消え失せていたことだろう。
それが分かっていて、星也も詩音に何重もの“縛り”を課したんだ。
津美紀と伏黒が駆けつけて――今は津美紀が詞織を医務室に連れて行っている。
校舎内を歩いていると、背後から聞き慣れた声が「恵」と呼び止めてきた。
「報復しないでって、言ったよね?」
――浦見東中学三年 伏黒 津美紀
振り返れば、厳しい表情で姉がこちらを見据えている。
「もう喧嘩しないって、言ったよね?」
強い口調で重ねてくる津美紀に、伏黒は低く舌打ちした。
「星也さんたちがいないからって、保護者ヅラすんな。アイツを傷つけられて、黙って許せっていうのか?」
「私だって怒ってるし、許せないって思ってる。でも、手を上げたらアイツらと同じ。『許せない』って気持ちの負の連鎖が生まれるだけ」
「だったら、そんなこと思えないくらい、徹底的に叩けばいい」
「それはただの私怨! 暴力で解決できることなんてない!」
津美紀の正論ばかりの言葉に、伏黒の苛立ちは募っていく。