第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない
—8小節目—
ピタゴラス
その日の内に、エリはナギの告白に応えた。断る理由が見当たらないどころか、考える時間すら必要としなかった。
早いもので、二人が交際を始めてからもう一ヶ月以上が経過しようとしている。そんなある日のこと。
「お、エリちゃん。どうもいらっしゃい」
『大和さんに三月さん、こんにちは。すみません、またお邪魔します』
「邪魔だなんて思ったことないから!てか、いつもお土産ごめんな」
エリが差し出した手提げ袋を受け取りながら、三月は恐縮する。テーブルの向こうからは、大和が興味ありげに三月の手の中の袋を覗き込んだ。
「ほうじ茶です!エリとワタシが選びました」
二人で公園の近くを歩いていた際、どこからか漂ってきた茶葉を煎る香り。いつもは紅茶を嗜むことが多いエリとナギだが、たまにはほうじ茶も良いよねと、つい衝動的に購入した。
なんて話をしながら、恋人同士は幸せそうに違いの視線を絡めている。
大和と三月は、良かったなぁナギ…と心の中で祝福をしつつも、少しむず痒い感覚も同時に覚えた。大人二人にとっては、やはり糖度が高過ぎたのだろう。
「じゃ、じゃあ早速だけどそのほうじ茶、淹れさせてもらおっかなー」
「あ、そうだ。俺ちょうどたい焼き買ってきたんだ。エリちゃんもどーぞ。チョコって意外とイケるよな」
「OH!ヤマト、残念ながらエリはクリーム派です」
「いやそこはやっぱこし餡だろ!」
「あー、もう、全部美味いでいいじゃない!つか、エリちゃんに選ばせてやれよ!」
リビングキッチンで繰り広げられる寸劇に、エリはくすくすと小さく息を吐き出した。