第36章 武将達の秘め事⑦
「まぁ、それとなく探りを入れてみるか…」
「おい、光秀。御館様に無礼なことはするなよ」
「これは心外な。俺ほど礼儀正しい男はいないと思うが」
「はぁ…お前のは慇懃無礼っていうんだ」
「それにしても、あの信長様が一人の女に執着されるとはな。そう言えば信長様の女の好みって聞いたことないな。朱里は確かに器量良しで気立ても良いよくできた女子だが、俺なら経験豊富な女を選ぶけどな。後腐れなく付き合える大人の女の方がいい」
「信長様もこれまではそんな感じでしたよね。恋とか愛とか、そんなのとは無縁の人だったし。まぁ、閨の相手には年中不自由してない感じでしたけど」
「おい、御館様はそのような不誠実な御方ではないぞ」
「別に見境ないとは言ってません」
「こら、家康。口を慎みなさい」
「信長様は城下の女性達にも大変な人気でいらっしゃいますからね。ですが、朱里様とはいつの間に恋仲になられたのでしょう?私、全く存じませんでした」
(三成はやっぱり三成…)
「経験のない初心な女に一から手解きして自分好みに仕立てる、というのが良いのではないか?若紫のごとくにな」
「若紫って…源氏物語か?純粋無垢で真っ白な女を自分色に染め上げる…確かにそれは男の理想だな。好いた女の初めてを全部自分のものにするのも悪くない」
光秀の意見に同調するようにニヤリと口角を上げる政宗に対して、家康は嫌そうに眉を顰める。
「そういうの、悪趣味ですよ、二人とも。俺は信長様はそういう嗜好の人じゃないと思いますけど」
「長い付き合いだけあって、さすが分かってるな、家康。そうだ、御館様は光源氏みたいな節操のない男じゃない!」
「秀吉さんはちょっと落ち着いてください。はぁ…信長様のことになると、途端にポンコツ…っ、いや、冷静さを欠きますよね。朱里は見た目大人しくて従順そうに見えますけど意外と芯はしっかりしてますよ。男の言いなりになるような子じゃないし、信長様もそういうのは好みじゃないでしょ。傍若無人で強引だけど、女に無理強いするような人じゃない」
「何だ、家康、関心なさそうにしてたのに朱里のこと、結構よく見てるな。あと、信長様のことも」
「っ、別に…普通です」
「一見淑やかそうに見えて、閨では妖艶に男を惑わす。男はそういう意外性を持つ女に惹かれるものだ」
「っ…」
