第19章 情炎〜戦国バレンタイン
気まずい顔で口籠もる家康を不審そうに見ていた信長だったが、二人が手に持っていた同じ包みに気がついて、更に眉を顰める。
「……おい、それは何だ?」
そそくさと立ち去ろうとする二人を、信長は不機嫌さを隠さずに呼び止める。
「あ、ええっと…これは、その…」
「朱里からの貰い物です。菓子らしいですが。今日は『ばれんたいん』とかいう異国の祝い事の日らしくて、あいつ、広間に城の男どもを集めて配ってるんですよ。信長様も行ってみられては?」
不機嫌な信長の様子から何事か察したのか言い淀む家康とは反対に、政宗の方は明らかに面白がってるようだ。
「………」
「お、御館様っ…?」
(やべぇ…全身から不機嫌さが溢れ出てる…)
「広間に男どもを集めて…贈り物、だと…?」
ギリッと奥歯を噛む嫌な音が頭の中に響き、胸の内にムカムカとした気持ちの悪い感情が込み上げる。
(俺が居らぬ間に勝手なことを…あやつ、一体どういうつもりだっ!)
男たちに笑顔で贈り物を渡す朱里の姿が浮かび、言い様のない苛立ちが込み上げる。
気がつけば、手の平に爪が食い込むほどに、拳を強く握り締めていた。
そんな信長の様子に目敏く気付き、隣であたふたする秀吉を無視して再び歩き出した信長の足取りは荒々しい。
その後ろ姿を悩ましげに見ながら、家康は大きな溜め息を吐く。
「政宗さん、悪ふざけが過ぎますよ。あれ、絶対揉めるやつですから…知りませんよ、朱里に恨まれても」
「何でだよ、俺は事実を伝えただけだろ?それにしても、朱里は本当優しいよな。男にも女にも、城中のやつ全員に贈り物をするなんて…普通はしないだろ?」
「そうですね。皆、随分喜んでましたね」
広間に集まった者は皆、恐縮しつつも嬉しそうに顔を綻ばせていたようだ。
朱里の優しい気遣いに心打たれ、そんな朱里を伴侶に選んだ信長へ心酔する声が溢れていた。
朱里のその優しさが仇にならなければいいのだが…と、家康は広間の方を心配そうに見つめるのだった。