第85章 無色透明
悶える優鈴を無視して先輩は私に話しかけた。
「あなただけが選んだことじゃないのよ。実弥くんも選んだことなの。いいわね。」
「…ちょっ…まず謝ってくんない…?」
優鈴はなんとかよろよろと立ち上がった。
「意地悪なこと言うからでしょ。」
「そんなつもりなかったですよ」
「え、あれでなかったの!?」
先輩は驚いていた。…うん。あれは優鈴の通常運転。先輩と優鈴の組み合わせって珍しいから知らなくても無理ないか。
「まぁ、さ。大仕事が終わった後に燃え尽きるの本当によくわかるよ。」
「……」
「結局は希望論だよ、。」
優鈴の声音が途端に優しくなった。
「いいかい、お前は無理やり自分を誤魔化してむちゃくちゃなことやってきたんだ。今は全部忘れてのんびりする時間だと思いなよ。」
「そうよ。霧雨ちゃんって心配になるほど頑張り屋さんなんだもの。休んでいたって怒られないわ。」
「そーそー。シンダガワはお前にベタ惚れでちゃあんと尽くしてくれるじゃん。甘えなよ。」
「…わがまま言ってたら嫌われちゃう」
私がぽつりと呟くと、優鈴と先輩は顔を見合わせた。
「それでお前のこと嫌いになったら俺が半殺しにしてやる。」
「そして私が残りの半分を殺すわ。」
「…それだともう全殺しでは?」
この2人ならやりかねないのでその時は止めようと思った。
私たちが家に戻るともう真っ暗だった。
怒られるかと思ってそろりそろりと中に入ると、実弥は赤ちゃんと一緒に寝ていた。
「…ご飯もお風呂も何もしないで実弥が寝てる。」
「まっ!」
先輩と優鈴は驚いていた。
「あらあらぁ。一言挨拶したかったけど…。仕方ない。それなら私がご飯作ってあ。げ。る。」
「え、先輩が…?」
「だってもうお腹ぺこぺこでしょ?実弥くんも疲れてるだろうし。ついでに私らも食べさせてもらうわ。」
そう言って先輩は腕まくりをした。その姿を見ていると、少しだけやってみようという気になった。
「…それなら私もお手伝いします。」
「あら、とても助かるわ!優鈴くんは運転してくれたし座っててちょうだいな。」
「はぁ、それなら…」
優鈴は台所に置かれていた椅子に座った。実弥がたまに休憩で座ってるやつだ。