第72章 “本当の記憶”
春風さんがばっと振り返った。その時、ドタドタと走ってくる足音が聞こえた。気配でわかる、実弥だ。
「ッ!!!」
鬼のような形相で入ってくるのでギョッとしたが、部屋の中にいる私たちを見た途端ポカンとした顔になった。
「あ、どうも…」
「…どうも」
「……げ…玄関開いてたから空き巣かなんかかと…」
実弥が大慌てで帰ってきた理由もわかる。
ともかく、ピンピンしているその姿に私たちはホッとして、その場にへたり込んだ。
「……私の未来察知が遅かった…」
「私の気配察知も…」
春風さんと私は気づかなかったことを悔いたが、今やどうにもならない。
実弥が何か言う前に、天晴先輩が畳みかけるように早口で捲し立てた。
「あっあの!!実弥くん、この子を怒らないでね!?私がもう一泊しようって言ったんだから!!」
「うん、すごいそう。ほらお土産!これも…これもこれもこれもこれもこれもこれもこれも!!!!!」
「え、あ、いや」
桜くんがぎゅうぎゅうと実弥にお土産を押し付けた。
「「「「ごめんなさい!!!」」」」
そして、全員で頭を下げて全力謝罪。
実弥は戸惑っているようだったが怒ってはいないようで。
「…俺も…文句言うくらいなら快く送り出さなかったらいいだけですし……あの、もういいんです。…なんか、器が小さいやつみたいで…」
「……それはそうだろ」
ボソッとこぼした桜くんを天晴先輩が肘打ち。彼はうめき声をあげて倒れ込んだ。
「じゃ、私たちは帰るんでごゆっくり!まじでごめんね!?」
「本気でごめんなさーい…!」
「すんませんしたー」
みんな(桜くん除く)はペコペコ頭を下げながら帰っていった。
玄関のドアが閉まってからも私は頭を下げ続けた。
「あれ?ふぬっふぬぬぬぬぬっ!土下座ができない!!お腹つっかえるっ!!」
「おい」
「こうなったらスライディングの勢いで」
「待て待て待て待て待て」
走り出そうとする私の首根っこを実弥がガシッと掴んだ。
「お前妊娠してんだから腹つっかえんのは当たり前だろ。頼むから大人しくしてろ、このアグレッシブ妊婦。」
「アグレッシブ」
「もう怒ってねェ。嫌味ったらしいこと言って俺も悪かった。」
そう言う彼は本当に怒っていなくて、ホッとした。
でも…私はまだモヤモヤした。