第19章 鬼殺隊の次は
実弥の言いつけ通りどこにも行かなかったし誰にも会わなかった。
というわけで仕事帰りの実弥と話し合いタイム。
「と、まあここまでがお母さんと話したこと…」
私はすっと目を細めた。
「とにかくその怖い顔やめてくんない…?」
「あ?」
「怖いよ、おはぎが怯えてるから。」
テーブルの上に座り込んでいたおはぎがふしゃー!と唸り声をあげて毛を逆立てていた。
もちろん実弥に向かってだ。今なら顔だけで五人は殺れるだろうな。
一日たって私は落ち着いたけど当の本人である私より実弥がやばい。
「何なんだあの人はァ…!!お前の母親だからって思ってたがもう我慢できねェ!!」
私はため息をついた。荒ぶるおはぎをよしよしと撫でた。
「俺が一番気に食わねえのは見合い話だ。連絡先もらったんならさっさと連絡して断りゃいいだろうがァ…!!!」
「…いや~、しようと思ったんだけど何か気まずくて……。覚悟決めたら電話かけるよ。」
「貸せ俺がかける」
「待て待て待て待て」
実弥がイライラを募らせる。あああどうしようどうしよう誰か助けて。
「お母さんのことは私が何とかするから、とりあえず今は何されても無視してていいよ。私は慣れてるからヘーキだし。」
あせあせと何とか言葉を絞り出す。
実弥は怒った顔から一変、急に真顔になった。
「それじゃあお前が辛いだけだろ」
「つ、辛い…はないでしょ」
私は能面のような笑顔を張り付けた。
「親子なんだし」
驚くほど感情がこもっていなかった。
けれど、私に出来る精一杯はこれだった。
「………お前の母親は俺の母親だよ。」
「……」
「そういう関係になろうって言ってただろ、俺達」
実弥がぎゅっとテーブルの上の私の手を握ってきた。
「無視はしない。俺は向き合う。」
「……でも…私、問題だらけだし…」
「それでも後悔しねェってお前に言ったのは俺だ。」
……。
実弥の手があたたかいせいだ。
そのせいで涙が出てくる。
ずっと一人で生きていくんだと思っていた。大切な仲間たちが皆死んでいって、誰もいなくなってしまって。
だから強くなりたかった。強くありたかった。
でも、今じゃぐずぐずに甘やかされて、すっかり泣き虫になっちゃったなぁ。