第52章 怒り
「宇那手は、反対するでしょうが、この件については、他の柱にも共有していただきたく存じます。鬼と取引をするのは、そういう事なのだと。例え柱であっても、正気を保ってはいられないでしょう。宇那手でさえ、苦痛のあまり死を願ったと言っておりました。どうかあの娘を止めてください! 同等の立場である私は、もうあの娘に命令する事が出来ません!! お願いいたします!!」
「勿論です! 当然です!! 私が話しをします!! そんなことになっていたなんて⋯⋯」
あまねは衝撃を受け過ぎて涙ぐんでいた。産屋敷は、布団を強く握りしめた。
「何故私は、こんなにも弱いのだろう。何故、あの子を守ってやれなかったのだろう。せめて私がもっと賢かったなら、あの子にそんな真似はさせなかった。私の頼りなさ、不甲斐なさのせいだ。どうして私は⋯⋯五歳も年下の女の子を、姉の様に頼っていたのだろう。その結果がこれだ! 全て私の責任だ」
「宇那手が自分で判断し、黙って進めていた事です」
冨岡は一応そう言ったが、言葉通りには納得していなかった。産屋敷もだ。
「このままでは、宇那手が殺されてしまう!」
彼は胸に手を当てて喘いだ。
「鬼舞辻は、宇那手を利用するだけ利用し、処分するつもりなのだと思う。それは分かっていた。柱なら、上弦を討つために命を落とすことも、致し方ないと思っていた。しかし、歪んだ嗜好の鬼に引き渡され、戦い以外の理由で殺されるなど⋯⋯認められない! あの子は⋯⋯なんて惨いことを⋯⋯。私は何一つ気付いてやれなかった⋯⋯」
産屋敷は、苦渋の決断を迫られた。火憐を側に置き、生き長らえる事。彼女に休息を与える事。
きっと火憐は、何があっても「大丈夫」と答えるはずだ。実際そう言って任務に邁進していた。
「宇那手には、一足先に刀鍛治の里へ向かって貰い、しばらく休息を取らせよう。炭次郎が動ける様になるまで、上弦の鬼も動かないはずだ。彼女を隠そう。当分、蜜璃の担当地区を任せる。彼処が一番近いからね」