第3章 尊い人
私たちは鴉の道案内で目的の場所へと向かう。
甘味処からはかなり距離があったようで、すでに西の空には、燃えるような夕焼けが映っていた。
「わぁ…稔さん、見てください!夕焼けがとってもきれいです!」
「あぁ、本当だな、きっと明日は良い天気になるだろうな。」
それから私たちは 明日、逢藤山へ行く約束をした。
私はすごく楽しみだった。
稔さんと出かけるのは久しぶりで、きっと良い骨休みになるだろうと期待していた。
でも、想像していた "明日" は、来なかった。
稔さんは、私たちがその日対峙した鬼に、殺されてしまった。
森を抜けた先に、静かな湖畔があった。
そこは雅で美しい風景が広がっていた。
鬼の名は"斎巖(さいがん)"といい、瞳には “下参" と刻印があった。
……最悪だ と思った。
鬼の始祖、鬼舞辻無惨の直属の配下である、十二鬼月。
その内の1体である鬼が、今私の眼前にいること。
私は十二鬼月に初めて遭遇した。嫌な汗が、背筋を伝う。
鴉は、「複数の鬼」と言ったが、正しくは、その斎巖の操る鬼が数匹、一緒にいたのだ。
一瞬だった。
私が斎巖の操る鬼、一匹に手こずっていた時
……気が付かなかった。
斎巖本体から私めがけて、血の刃が飛んできていた。
ズシュッ…!!
すぐ脇で肉の切れる音がしたと思ったら
稔さんが絶命していた。
腕と首を同時に斬られて。
ガシャッ…
私は吃驚し、持っていた刀を落としてしまった。
そこからのことはもう覚えていない。