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君に届くまで

第17章 薬を作る



「…え?」

崖下を覗いている筈なのに、レンの背中が見えることがとてつもなく違和感を感じる。ずっと見ていると視覚が麻痺してそのまま落ちてしまいそうだ。
レンはまるで土を掘る様にクナイで周りを突いて丁寧に根を取り出すと、立ち上がり、またすたすた歩いて戻ってきた。

「これでいいですか?」

レンは薬研の手に乗せ見せる。

「あ、あぁ。…これで大丈夫だ…。」

本当に綺麗に取れている。普通は、場所が場所だけに完全な状態で取れるのは珍しい。それをいとも簡単にあっさりと…。

「1個で大丈夫なんですか?他にも生えてましたけど。」

「…1個で大丈夫だ。…貴重なんだよ。この薬草…。」

薬研は、レンに畏敬の念を抱く。
絶対マネ出来ない…。

「なあ、大将。あれ取れるか?さっき言った木の実。」

薬研はものは試しと聞いてみる。

「木の実ですか?…どれが取っていいものかわからないですね。一緒に来てください。」

レンは言うが早いか薬研が背負っていた籠を下ろすと、薬研に背を向ける。

「はい、おぶさってください。」

「え?」

薬研は嫌そうな顔をする。

ーこの歳でおんぶはちょっと…。それにこの距離だと、おんぶして見上げてもそう変わらないと思うんだが…。

「取りたいんでしょ?教えてくれなきゃ。」

レンは薬研を促し、彼は渋々背中に乗る。

「しっかり捕まっててくださいね。一気に行きますよ。」

そう言うと、先程の木と同様の木に凄い速さで駆け上った。あまりの速さに薬研は思わずしがみ付く。
適当な木の枝で止まると、薬研を下ろそうとする。

「ま、待った!ここで下されても困る!背負っててくれ!」

男の沽券にかかわる、なんて強がりも言えなかった。

ー地上何メートルなんだここは!なんでこんな足場の不安定な所で平然としていられるんだ!

薬研は内心、阿鼻叫喚の嵐だった。

「…わかりました。じゃあ指示をください。」

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