第29章 急襲
「…術が解けていないところを見ると、命に別状は無いと思われますよ。」
自分が首を絞められている所を見て、何故か淡々としている。どういう神経をしているんだ、この人は…。
言う通り、いくらもしない内に男に蹴りを喰らわせ、脱出した様だが…。それにしたって…。
旦那方も同じ気持ちだったのか、げんなりしている。
「とにかく、結界から出ないでください。これは周りから見えなくする結果で、一度出てしまうと中に入れませんから気をつけてください。」
そう言って、分身2人で透明な結界を張って、そのまま消えてしまう。
俺達は皆、不安げに本丸を見下ろした。
大将は次々と集まってくる時間遡行軍に囲まれてしまう。
俺は只々それを見ているだけだ。
俺は刀だ。主を守る守刀だ。
刀の本分は、主を守ること。そして戦うこと。
だが現実は、守るべき人に守られている。
これじゃ、何の為の守刀なんだかわかりゃしない。
歯痒かった。
何も出来ないことが苦しい。
このままでいいのか、と自身に問いかける。
何もしないまま主が殺されるのを見ていていいのか。
行っても何も出来ないかもしれない。
足手纏いにしかならないかもしれない。
でもここで何もしないで後悔するより、やって後悔した方がいい。
あの人だけは死なせたくない。
「俺…、行ってくる。」
「行くって…。行くって、まさかあそこへ!?」
乱が驚きの声を上げた。
まぁ、そうなるわな。
「そうだ。行って大将が逃げられる様に手助けしたいんだ。俺、ここにいて後悔したくない…。やるだけやって、後悔したいんだ。」
俺は乱を真正面から正視する。
「薬研…。」
「悪いな、乱…。」
俺は言葉を失った乱の横を通り過ぎ、結界の際に立つ。
ここを越えたら、もう後戻りはできない。