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君に届くまで

第19章 左文字の記憶


小夜と目があった瞬間、レンの周りの景色は真っ暗闇になった。いや、暗がりだというだけで闇ではない。
手元に小夜の感触が無く、不審に思って下を見ると小夜が寝ていた布団ごと無くなっている。

レンは一気に警戒し、立ち上がった。周囲を見ても誰もいない。そこで気づいた。部屋が変わっていたのだ。いつもの広間ではない。

「…兄様…!兄様…!消えないで…!」

隣の部屋から、声が聞こえる。おそらくは小夜だろう。
レンはそっと襖を開けると、知らない誰かが寝ていて淡く光っていた。薬研の時と同じ症状だ。消滅するんだと理解できた。

「消えないで!お願い消えないで!」

小夜は呼びかけも虚しく、寝ていたその人は淡く光ったまま徐々に透明になっていき、やがて完全に消えてしまった。
後ろから走ってくる音がする。入り口を見ていると江雪が飛び込んできた。

「宗三は…!?」

襖を乱雑に開け中を見るも、いるのは小夜だけだ。
江雪はもぬけの殻となった布団と泣いている小夜を見て、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。

レンは、呆然とする江雪の肩に手を置こうとするも、するりとすり抜けてしまう。
幻術の類なのだろうか。

ーさて、どうしたものか。

レンはその場を離れようと思った時、入り口に誰かが来た。

「あら、間に合わなかったのね。残念だこと。」

女だった。その場に合わぬ、嬉しそうな声だ。
女はそのまま、ずけずけと奥の間に入っていく。
そして、空になった布団の中央に立つと、江雪と小夜を楽しそうに見下ろす。

「弱いから折れるのよ。いやね、軟弱って。審神者を守るのが貴方達の役目なのに、情けないわね。これじゃ遠征にだって出られやしない。」

打ちひしがれている2人は、反論すら出来ない。
女は目を弓形に歪め、その様子を眺める。

「次はどちらにしようかしら。
さぁ、さっさと強くなって私の役に立ちなさい。」

女の言葉に反応するように小夜から黒い靄が噴き出る。

「…なぁに?私に楯突く気?」

女は小夜の頭を掴み、床に押し付ける。

「お小夜!」

江雪は悲痛な声を上げるが、女は何の反応も示さず、更に頭を掴む力を込める。
すると小夜から噴き出た黒い靄が霧散する。
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