第7章 御幸の記憶
入学式が終わってすぐに、マネージャーが入部してきた。
早くね?とみんな口々に言っていた。
礼ちゃんと目があって、悲しい表情で微笑まれたけど、意味がわからなかった。
礼ちゃんのあの悲しい表情は、マネージャーとして入ってきた女の子とキャッチボールをした時に、ピンときた。
投球フォームが、あいつと全く一緒だったから。
「なぁ、兄弟とかいる?」
別人であってほしいと少し思った。
「いたよ。」
やっぱり、そうかよ…。
今目の前にいるこの子はあいつの妹。
クラスも一緒で、大事な野球部の仲間。
兄を亡くして間もないからか、時々暗い表情を見せる事もあったが、基本的にはかわいい明るい女の子。
野球の知識が半端なくて、スコアも見やすくてわかりやすい。
マネージャーの仕事もそつなくこなして、すぐに野球になくてはならない存在となっていた。
先輩達からも可愛がられて、引っ張りだこ。
「舞ちゃん」
そう呼べばなに?と笑顔で返事してくれる。
彼女の事をもっと知りたいと思い始めた頃、周りの奴らも舞ちゃんの魅力に気づき始める。
なんでお前らは気安く告白なんてできんだ?
ハッキリと断らないのも、モヤモヤする。
意味のわからない苛立ちを舞ちゃんのせいにして、距離を置いたこともあった。
自分がモテると自覚していないのか、無防備にも程がある。
こんな訳のわからない感情に振り回されてる場合ではない。
ここで野球がやりたかったんだろう。
今はがむしゃらに野球をやらなければならない。
正捕手の座を手に入れて、レベルが高い野球ができる幸せ。
嬉しいはずなのに、舞ちゃんが隣にいない。
彼女の隣は心地よくて、辛い練習も乗り越えてこれた。
野球と彼女と勉強。
器用にこなせつ奴はほんとすげぇ。
一個上の先輩で彼女がいるのは、哲さん。
通いなのに、誰よりも遅くまで練習してて、いつ彼女との時間作ってんだろ。
その疑問を哲さんにぶつけてみた。
答えはよくわからなかった。
要は彼女が出来た人間で、黙って哲さんのことを支えてくれてると言うこと。
「難しく考えるな。好きなら好きって言えばいいだろう。
いい所を見せたいと言う思いは、自分が思っている以上の力が発揮される時もあるぞ」