第3章 ※貴方がほしいもの、私がほしいもの※
「うぅ・・・・」
小さな呻き声をあげると、キリカはそれきり固まってしまった。何回やっても勝てるどころか、勝てる気配すらないのだ。
(巌勝様、いくらなんでも強すぎだわ・・・)
だが、お互いの欲しいものを賭けている以上、後には退けないのである。
「巌勝様、もう一度!」
「分かった・・・」
という二人の会話を幾度繰り返したであろうか。
「もう一度!」
「これ以上やっても無駄だ・・・。潔く敗けを認めろ・・・」
「ですが・・・」
必死に食い下がるキリカに、半ば呆れたように黒死牟は溜息を洩らす。囲碁の盤を脇に退けると、静かに口を開いた。
じっと、キリカの顔を見据える。
「ところで・・・、キリカ・・・」
「はっ、はい!」
「約束は・・・、覚えているか・・・?」
「はい。それは勿論・・・」
巌勝様の欲しいもの。何だろうか。頬に手を当てながら、しきりに考えを巡らせた。
(困ったわ・・・。巌勝様、高価な物ばかりつけていらっしゃるから・・・)
果たして、己に用意できるような代物だろうか。けれど、約束を反古にする訳にはいかない。自身の勝利を信じて疑わなかったキリカは、どうしたものかと焦っていた。
「私の欲しいものが・・・、分かるか・・・?」
「な、何でしょうか・・?あまり高価な物はご用意できませんが、それでも良ければ・・・」
「違うな・・・、お前にしか用意できぬ物だ・・・」
「・・・?、私が・・・・、きゃあっ!」
言い終わらないうちに、その場に押し倒された。黒死牟の顔が間近に迫る。
「私が欲しいもの・・・、それはお前だ・・・」
「えっ・・・。まだ、お昼過ぎですし、せめて夜になってから・・・」
のし掛かる身体を少しでも押し返そうと、キリカは必死にもがいた。