第42章 そんなの、私に分かりませんよ
「なんでこんなに中崎さんは綺麗なんですかー」
『へ』
何を血迷ったか、壮五は私の顔面を両手で包み込んで言った。あまりに距離が近いため、彼の生暖かい息が唇あたりにかかる。
「お、おい逢坂、さすがにそれは」
「めちゃくちゃ近いよ!壮五くーん!」
「…っち。酔っ払い」
どよめくTRIGGER。天の舌打ちがすこぶる怖かったが、顔を固定されている為、身動きが取れない。
「プロデューサーのあなたが そんなにも綺麗な顔してるなんて、アイドルである僕の立場がないじゃないですかぁ」
『お、逢坂さんは…その、イケメンさん。です、よ?』
「おお…春人の奴、珍しく動揺してるぞ」
「さすがに、あの距離で顔を褒められたら春人くんでも恥ずかしいんだね」
「冷静に観察してないで、そろそろ助けてあげない?」
楽と龍之介が、天の言葉に頷いた。そして壮五の体を後ろに引いて、私から引き離そうとする。
しかし、壮五は私の顔を両手で持っているのだ。従って、私の顔も一緒に引っ張られる。
『いたたた、顔がもげる』
「っ、すげぇ力だな!」
「そ、壮五くんっ、気を確かに!」
「じつは僕、さっきあなたと2人で線香花火をしてるとき、ちょっとドキッとしちゃったんです。笑ったあなたの顔が、あまりに綺麗で…女の人みたいに可愛く思」
『あーーーー、いたたたーーー』
壮五の言葉に被せるようにして、私は大袈裟な大声を出した。私に “ 女みたい ” とか “ 可愛い ” はタブーなのだ。
そこへ、天が 楽と龍之介に呟いた。
「ねぇ。さすがにそれ以上 引っ張ったら、プロデューサーの顔が取れる」
「「え」」
2人は、それは困る。とでも思ったのか、壮五を引いていた手を ぱっと離す。
すると、後ろに加わっていた力が 急になくなったものだから、壮五の体は私の方へ飛んで来た。
ゴチン!!と、私と壮五の額は激しくぶつかった。
『〜〜〜〜っっ』
「あ、やべぇ…」
「ごめん春人くん!!大丈夫か!?」
「うわ…痛そう。ご愁傷様」
私はおでこを両手で覆って俯いた。
壮五は、目を回して 私の足元に崩れ落ちた。