第34章 いや、はい。もう何でもいいです
強引に案内されたのは、案の定の蕎麦屋だった。ガラガラと玄関をスライドさせながら彼は言う。
「ちょうど昼の営業終わったところなんですよ。すぐ準備しますね。
エリさん、何にします?」
『じゃあ、あんかけうどんで』
「ははっ。面白い冗談ですね、それ」
『………え?』
「え、って…。ま、まさか本気…」
私は、何か間違ってしまったろうか。
蕎麦屋にはうどんが。うどん屋には蕎麦が メニューにあると思っていた。
同じ麺類だから、当然食べられる物だと考えていたのだが…
楽は、突然 私の両肩をガッと掴んだ。
「今から俺が…凄く…凄く、重要な質問をします!心して答えて下さい!」
『は、はい』
「…エリさんは…蕎麦と、うどん。どっちが、好きですか!」
『うどん』
私が答えると、彼は ガクゥっとフロアに両膝を突いた。
倒れこむ前、みぞおちに完璧なブローを決められたような、見た事もないような顔をしていたが。アイドルがそんなに面白い顔を披露しないで欲しい。
「そん…な、こんな事が…あっていいのか…っ」
「ぎゃははは!蕎麦屋さん、ちょー面白い!今の顔もっかいやってー!」
両膝と両手を地に突き、うなだれる隣では環が転げ回る。
大和は、そっと屈んで蕎麦屋の背中に手を添えた。
「まぁまぁ八乙女…あー間違った。山村さん。そんな事もあるって。どんまいどんまい。
ほら、いつまでもそんなとこ へばりついてちゃ駄目だろ。せっかくのイケメンが台無しだぜ?」
「あぁ…。いやでも、俺はやっぱり 夫婦の価値観が合うかどうかって大切だと思うんですよ。これから先、彼女とやっていけるかどうか…」
「なぁ。お前さん、ショック強過ぎてヤバい事口走ってるの気付いてる?なぁ」