第32章 TRIGGERだから
そこから2週間。それは実に濃密なレッスンの時間であった。
——— ボーカルレッスン ———
『一通り歌ってもらったところで。では調整していきましょう。
気になる箇所はありましたか?』
「えっと。ここの部分が俺には少し高いみたいで、歌いにくさがあるんだけど」
『龍なら出ますよ大丈夫』
「調整とは!!」
「おい龍、諦めろ。春人の言うところの調整って、そういう意味じゃねえから」
『リズムが気に入らない箇所や、歌詞の解釈がそぐわない部分があれば直します』
「音階については 直す気ないって言ってるようなものだよね、それ。
まぁ大方、作曲の段階で全部計算されてるんでしょ。ボク達がギリギリ出せる音域内で組み上がってるからね」
『天は気付いていたんですね。
そういう事なので、喉を潰さない様に気を付けながら練習していきましょう』
——— ダンスレッスン ———
『正直 今回に限っては、とりあえずダンスは二の次で構わないと思っています。曲さえしっかりと歌い込めれば、オン大 ノミネートは安全圏ですしね。
なのでダンスは、繰り返し部分や 簡素化したものを多用しようと考えてます』
「「「却下」」」
『まぁ、そう言われるかもしれないとは思ってましたが』
「新曲披露ライブでは間に合わせのダンスで誤魔化して、年末のオン大生放送でだけ本気出すってか?」
「ありえない。それはライブに来てくれるファンに対して失礼」
『音楽大賞の審査基準に、ダンスは入っていないんですよ?』
「うん。でもね春人くん。俺達はやっぱり、ファンの前でもカメラの前でも、同じ姿を見せたいんだ」
『……分かりました。分かりましたよ。じゃあ2週間後のライブも、オン大用のダンスも、同じ物で行きましょう。
その代わり…指先の動きひとつ取っても完璧に仕上がる様、扱きに扱きますよ』ギラ
「ふ、当然」
「やってやれない事はない。だろ?」
「あはは!よろしくね、春人くん!」