第17章 光栄の至り
ファンならば購入したCDを 一刻も早く開封するだろう。そう思っていた。
やはりその予想は的中し、早くも当選者から連絡が来た。という
単純なお話である。
『お手数ですが、まずやって頂きたい事がございます。
当選チケットの写真を、裏面にあるURLまでお送り願えますか。
そう致しますと、今度はこちらからメールを返信させて頂きます。そのメールには、デート当日の詳細が——』
その後の手続きの説明をしながら、電話の向こうにいる人間の、人物像を想像してみる。
声はかなり幼い。おそらくまだ高校生くらいの女の子ではないだろうか。
当選の喜びにテンションが上がっているが、反面 緊張が伝わってくる。出来るだけゆっくり、聞き取りやすい説明を心がける。
『はい。
はい。では、後ほど頂く住所に 必要書類を速達でお送りしますので、当日に記載したものをお持ちください。
書類を記入頂く際や、他にも何かが不明な点がございましたら、いつでもご遠慮なく連絡を下さい。
はい…。いえ、とんでもございません。失礼致します』
向こうが受話器を置く音を確認してから、通話終了のボタンを押した。
「春人くんは、この連絡を待ってたんだね。それで、誰の相手だった?」
龍之介は、3人が聞きたかったであろう内容を 代表して質問した。
『今のは、天のお相手でしたよ。
詳細は後ほどデータで貰いますが、おそらく高校生くらいの女の子かと』
「ふぅん。ボクと同世代か」
天は、べつに相手は誰でも良い。と言ったような 淡白な反応を返してくる。
当たり前だが、彼にとってはデートと言っても 仕事の一環でしかありはしないのだ。
プロである彼ならば、相手が例え0歳の赤ちゃんだろうと、90歳のおばあちゃんだろうと、完璧に相手をしてみせるのだろう。
『おそらく、あとの当選者もすぐに電話をくれると思います。
私はそれまで残っていますので、皆さんは先に帰って下さい。
お疲れ様でした』