第13章 プロデューサーさんまでカッコ良いんですね…
『今度は何が気になるんですか?』
「…なんで、ふーふーしねぇの?熱くねぇの?」
そんな事くらいで、彼はまるでヒーローを見るかのような羨望の眼差しを向けてくる。
もうそんな彼が可笑しくて、我慢出来ずに笑ってしまう。
『っはは、べつに、私は猫舌じゃないだけですよ』
「すげー…あ!俺のスパゲティと、あんたのドリア ひと口交換しようぜ」
そう言うと、環は自分が使っていたフォークをそのままに。クルクルとパスタを巻き付けていく。そしてそれを私に向かって突き出す。
「ん」
…これは、もしかして…。“ あーん ” の展開なのだろうかっ…!
すぐに動く事が出来なかった私に、環が寂しそうに呟く。
「…え、食わねぇの?」
どうしてだろう。私は…、彼が寂しそうな顔をする度に胸が痛んだ。
どうしてだろう。私、彼には出来るだけ笑っていて欲しい。沢山楽しい気持ちになって欲しい。
心の奥の奥の方で、常にそう感じている自分がいた。不思議だった。何故、私は初対面の男にこんな気持ちにさせられているのだろうか。
『いえ。戴きます』
私は彼が持つフォークを、彼の手ごと自分の方へ引き寄せる。そして、丁寧に巻かれたパスタを口の中に入れる。
環の手は、ごつごつと骨ばっていて。やっぱり女の私とは全然違うな、なんて当たり前の事を思った。
「…へへ、美味い?」
『はい。とても』
「じゃあ今度は俺の番!あーーん」
環は大きく口を開けて私を待っている。
成る程…往があれば復もあるのだ。私は意を決して、ドリアをスプーンですくう。
特別に、大切に取って置いたエビも乗せてあげる。