第68章 あなた…意外と馬鹿なんですね
血が垂れてしまわないように、鼻をつまんだままベンチへ帰還する。そこには、どこからか出て来た救急箱を手にした一織がいた。
「座って下さい」
『あ、いえ。道具を貸してくれれば自分で』
「座って下さい」
『…はい』
この有無を言わさぬ雰囲気、どこか少し天に似ているな。そう思った。
座った途端、一織は私の小鼻をきゅっとつまんだ。
「上を向かない。ほら、ここ。自分で圧迫してて下さい。私は額の傷を診ます」
『…あい』
口呼吸の為、完全に鼻声になってしまう。
「中崎さん…。大丈夫ですか」
『めちゃくちゃ痛いです。頭、どうなってます?皮めくれてますよね。もう少ししたら、ぐしゅぐしゅになる系の傷ですよね。絶対』
「御察しの通り、なかなかのグロテスク具合です」
『ですよね。まぁ、頭かち割れなかっただけマシだと思う事にしますか』
「ええ。硬い床に、思い切り顔面から突っ込んだんでしょう」
『ここが体育館ではなく芝生だったら、もう少し軽傷で済んだんですがね』
「……それで?何があったんです」
至近距離から、真っ直ぐこちらを見る一織。その瞳には怒りが読み取れる。大体のことは察している様子だった。私はそんな彼から視線を逸らす。
『審判や皆んなの注意がボールに行った瞬間、服を引っ張られました。そして脚を引っ掛けて転ばされた後、顔面を蹴られそうになったんです』
「……そうですか」
私がベンチに引っ込んでいる間も、試合は引き続き行われている。5対4という圧倒的不利な状況だというのに、そのハンデを感じさせない戦いっぷり。
1番やっかいな相手とみなされた百に、2人のマークが付いているようだった。