第62章 俺は君にとって、ただの都合の良い男だったのか！

「春人くん、ありがとう。こんなに素敵なプレゼントを用意してくれて。すっごく嬉しい！」

「宝石言葉か。お前、何気にそういうの好きだよな」

『私、ロマンチストなので』

「そういう言葉は、もう少し笑顔で言えば？」


全くの無表情で言い放ったエリに、天が冷ややかに突っ込んだ。その後、さらに言葉を付け加える。


「ボクのブローチには、龍とは違う宝石が付いてるんだけど。これにも何か意味があるの？」

『勿論です。天のそれは、モルガナイトです。優しくて淡いピンク色で綺麗でしょう？
ピンク系の宝石は、愛情とか恋愛の類が宝石言葉になっている事が多いんですが。このモルガナイトには その他にも、清純、優美なんて意味があるんです。どうですか？天にぴったりだと思いませんか？』


嬉々とした様子で説明する彼女。天はそれこそ、優美な微笑を浮かべて礼を言った。


『あと、この宝石は他にも特徴がありまして…
こうやって、見る角度を変えると、若干色が違って見えるんですよね』


エリがブローチを持ち上げて傾けると、なるほど確かに少し見え方が変わる。正面から見れば淡いピンクだったが、斜めから見ると若干 深い青みが示された。
それを見た楽は、感心した様子で言う。


「ははっ、色が変わる宝石か。たしかに、二重人格の天にぴったりだな！」

『え、あ、いや。私はそんなつもりで選んだわけじゃ』

「ボクは二重人格じゃない。ただ求められる姿を、臨機応変にその場その場で使い分けてるだけ」

『ちょ。あの、2人とも落ち着い』

「だから、それを世間じゃ二重人格って呼んだんだよ」

「…はぁ。せっかくプロデューサーがボクの為に選んでくれたプレゼントに、難癖付けないでくれる？」


2人の小競り合いを、最初こそ制止しようとしていたエリ。しかし もう諦めてしまったのか、今では黙って俺の方を凝視している。
すぐに助けを求められているのだと悟り、俺は口馴染んだ台詞を2人に告げる。


「ほらほら2人とも、喧嘩しない。春人くんも困ってるじゃないか！
それに今日はせっかくの記念日なんだから、喧嘩はなし」