第54章 もう全部諦めて、僕に抱かれろよ
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『ちょ、待っ!いいって、私に気を使ってくれなくても!』
「は?」
『ほら、あれでしょ?私が変な勘違いしちゃってるのに気付いたから、女に恥かかせちゃいけない!みたいな』
「何言ってるの」
私の肩口に顔を埋めていた千だったが、しぶしぶ頭を持ち上げて言った。
「エリちゃんは全然分かってないな。僕が今日、どれほど君に触れたいって、ずっと考えてたか」
それだけ言うと、また頭を下げる。唇の裏が、首筋を伝う。その湿った感覚に、身がふるりと揺れてしまう。
「いや…違うな。そう考えてたのは、今日だけじゃない。
初めて君を抱いた日から、もう、ずっと。毎日思ってたんだ」
耳の裏で、囁くように言われると、勝手に熱い息が漏れ出てしまう。
『や、…ぁ、千、でも』
「君は、僕に触れられたくないか?僕に触れたくもないか?どうなんだ。答えてくれ」
私の安い理性が、欲望と懸命に戦っている。
良いのだろうか。自分に素直になっても。快楽だけを、この男に求めても。
やがて、長い沈黙を待っていられないとばかりに、千の口付けが落とされる。
唇を割り入ってくる、濡れた肉の感触。繊細で艶かしい動きに口中や舌が翻弄されると、勝手に涙が目尻に溜まる。
『んっ…ぅ!は、ぁ…ゆ き』
「は…、エリ…もう全部諦めて、僕に抱かれろよ。
面倒な事は何も考えなくていい。君はただ、快楽の波に溺れるだけでいいんだ」