第50章 お慕い申し上げておりました
「…腹が立つ」
「はは。図星だったか?」
「違うよ。
あたかも彼女のことを知っているふうな語り口をする、キミに腹が立ってるんだ」
天は、俺の挑発に乗って来なかった。痛いところを突かれて、激昂して殴り掛かってくる。それくらいの反応を期待していたのだが。
冷静に、真っ直ぐこちらを見ている。その姿は、10代の男とは思えないくらいの貫禄を纏っていた。
「ずっと一緒にいるボクの方が、エリを分かってるに決まってるでしょ?
宣言するよ。彼女は、ボクと一緒にTRIGGERを世界一のアイドルグループにする。
その上で、ボクを…九条天を選ぶ」
こんな安い挑発返しに、乗るような俺ではない。
普段なら。
さきほども言ったが、俺は ことエリに関しちゃ正常な判断を失うらしい。
逃げたくもないし、顔を背けたくもない。レベルマックスまで鍛えたスルースキルも、もはや何の役にも立たない。
「子供かよ。ずっと一緒にいる事で、本当に相手を理解出来ると思ってんのか?過ごした時間の寡多なんか関係ねぇよ。
よく言うだろ?量より質って。
どれだけ一緒の時間を過ごしたか。そんなもんより、どんな時間を一緒に過ごしたか。
そっちの方が重要だと、思わねぇ?」
鏡を見なくても分かる。俺は今、さぞ底意地の悪い顔をして笑っているのだろう。
そんな表情を向けられた天は、片眉を上げた。
外では、雷鳴が轟いていた。
「馬鹿じゃない?それを言うなら、ボク達がどれくらい高い壁を一緒に乗り越えたと思っ」
「あー違う違う。そうじゃなくてさ…。もっと分かりやすく言ってやろうか?
あんたらTRIGGERメンバーの誰も見た事ないような、あいつの顔知ってんの。俺は」
「…は?」