第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
「大丈夫か?春人くん…」
『な、なんとか』
全くそうは見えない。相変わらず、窓の向こうに視線をやって呟いた。
俺は、手に耳栓とアイマスクを持って 再び声をかける。
「ほら、これとかどう?耳を塞いで、周りが見えないようにしちゃえば怖くないよ!きっと!」
『…駄目です。そんな事をしても、不意打ちで来るじゃないですか。ヒュッっていう、あれが』
おそらく春人の言う “ ヒュッ ” とは、飛行機が上下する際に生じる、あの体が浮いた感覚になるアレだろう。
何とかして恐怖心を取り除いてやりたいと、あれこれ考えていると。不意に左手が強く握られる。
『また、貴方に情け無い姿を見せてしまいましたね。こんな私を、さすがにもう嫌いになりましたか?』
「っ、」きゅぅん
不安からだろうか、春人はいつになく弱気になっているようだ。この至近距離から、潤んだ瞳で見上げられ、さらには手を繋いだ状態だ。
もう可愛くて仕方がなくて、心臓がキュっとなる。
「お、俺が君を嫌いになるなんて、あるはずないから!もし仮に、君が人を殺しちゃっても銀行強盗しちゃっても世界征服を目論んでても!俺だけは君の事を嫌いにならないよ!」
『私はそんな私 嫌いになると思います』
どうやら、やり過ぎたらしい。
俺は、いつもこうだ。彼の事になると、加減なく突っ走ってしまう節がある。
そして、毎回 言ってしまってから後悔するのだ。
『でも…なんだか普段通りの龍の隣にいると、落ち着いて来ました』
「春人くん…」
『私が死ぬ時は…貴方も一緒ですよね。龍』
「そうだ、そうだよ。もしもの時は、一緒に死のうね。春人くん」
“ 一見すると 映画のワンシーンのようだけど、実はただ起こりもしない飛行機事故に怯えてる人をなだめてるってだけなんだよなぁ ”
そんなスタッフの呟きは、2人の世界にいる俺達の耳には届かなかった。