第13章 やりたいこと 上
「え?そう?
初めて言われた」
「そうですか?
絶対いい先生になりそうだけど」
ポリ、と後頭部をかきながら、先輩が眉をハの字にする。
「そうかな?
想像つかない」
「あっ、でもイチャパラはやめなきゃですね。
教育上よろしくないから」
「じゃあ無理」
「そこは頑張ってくださいよ」
どちらからともなく笑った声が、夜の蒸した空気の中に消えていく。
互いのぬくもりを確かめるように抱き合いながら、先輩が口布越しにわたしのおでこにキスをする。
少し寂しさを感じ先輩を見上げると、それを察したように笑って、今度はちゃんと口布をずらして唇にキスをしてくれる。
「明日任務一緒でしょ。
終わったらメシ行こ。
久しぶりに2人でゆっくりしたい」
コテン、と甘えるように先輩がわたしの肩に頭をのせる。
最近は任務ですれ違いが多く、なかなか2人の時間がとれていなかったから嬉しい。
「はい!」
先輩が顔を上げて嬉しそうに微笑んで、ぎゅっと抱きしめなおしてくれる。
「っ……」
大好き……。
わたしも力一杯抱きしめ返す。
どちらからともなく体を離すと、触れていた部分が熱を持って熱い。
「ごめん。
泥、ついちゃった」
先輩がゴシ、と指の腹で汚れた頬を拭ってくれる。
「全然大丈夫です」
別れがたくて俯いつしまったわたしの頭を先輩が撫でてくれる。
「これ以上ここにいたら我慢できなくなりそうだから……」
そう言うと、先輩が私の後頭部を引き寄せて掠めるようなキスをする。
「っん!」
いきなりでビックリしているわたしから顔を離し、先輩が優しく笑う。
「じゃあ、明日ね。おやすみ」
「おやすみなさい」
名残を惜しむように先輩がわたしの頬をそっと撫で、ベランダの柵から跳んで闇夜に消えていく。
おやすみなさい。
心の中でもう一度呟いてから部屋に戻り泥のついたパジャマを着替えると、ベッドに潜り込み先輩の唇の温もりを思い出すように自分の唇に触れる。
もしわたしが忍じゃない選択をしたら、先輩と離れることになっちゃうかも知れない……。
それは、イヤだな……。
三代目もゆっくり考えろって言ってたし、今はこのままで、先輩やろ班のみんなと一緒にいたいな。
そんなことを考えながら、わたしはいつの間にか眠ってしまっていた。