第10章 2人の秘密基地
先輩が買ってきてくれたケーキを食べようと、椅子もテーブルもないので、わたしたちは並んで床に座った。
でも蓋を開けると、ケーキは木に登ったときの衝撃で凄いあり様になっていて、思わず2人で顔を見合わせて笑ってしまう。
「ま、食べれば一緒だな」
「ですね」
ぐちゃぐちゃの上にローソクを立て、先輩が火をつけてくれる。
「消して?」
コクリと頷き、先輩とずっといられますように。と心の中で願い事を唱え、火を吹き消す。
すると、先輩がわたしの頭を自分の方に抱き寄せ、「おめでと」と笑って言ってくれる。
幸せすぎて、なんだか夢みたいだな……。
昨日の夜までは予想もしていなかった今の時間に、慣れない感覚に、心も体もふわふわと浮いているみたいな錯覚に陥る。
ろうそくを抜いている先輩を思わず見つめていると、先輩が何?と言うようにこちらを向く。
「なんか、夢みたいに幸せで……」
そう素直に言うと、一瞬ビックリした顔になった先輩が、おかしそうに笑って顔を近づけ素早くキスをする。
「夢じゃないでしょ?」
イタズラな笑顔で先輩が笑う。
「……はい」
いちいちなんでこう、かっこいいかな……
バクバクする心臓をなだめるように、わたしは先輩から目を逸らしこっそりと深呼吸をした。
一応ナイフもあったが、もうどう切っていいかもわからないくらいぐちゃぐちゃだったので、ついていたフォークでそのまま食べる。
わたしがフォークで落ちてしまったイチゴを食べようとしていると、先輩がわたしの前にケーキをすくったフォークを差し出す。
「はい。あーん。」
「えっ!?」
これを食べろってことだよね?
「ほら、早く。
ケーキ落ちちゃう。」
ずいっと口の前にケーキを近づけ、先輩が楽しそうにわたしを見る。
すごく恥ずかしいけど、食べないとケーキは本当に今にもどちらかに傾いて、落ちてしまいそうだ。
赤くなる顔を自覚しながら、目を瞑ってパクリとケーキを食べると、クリームの甘さと、イチゴの酸味が口いっぱいに広がった。
「おいしい?」
顔を覗き込んでくる先輩に、コクコクとうなずくと、また一口用意されていて、目を見開く。
これじゃ、わたしの心臓がもたない。