第10章 どこにも行けない想い
「黒崎くん、お酒くさい」
部屋着に着替えて部屋に戻ると、既にエアコンが全開でついていた。
眼鏡をかけてないとやっぱり別人のようだ・・
「・・・今日もバイト?結構飲んだんでしょ。」
・・・返事はない。
「お水でいい?」
「やだ。もう少し飲みたい」
まるで子供のように言う黒崎くんに笑ってしまった。
「缶チューハイあったんだけど、飲む?」
「いただきます。」
そう言ってお辞儀をしたかと思ったら、ゴツンと机に頭をぶつけたまま止まった。
珍しい。
黒崎君が酔ってるところなんて見たことないのに。
・・・それに・・・
「眼鏡、どうしたの?」
「頭の悪そーな女に壊されました。」
「えっ!??バイト先で??」
「・・・・・。」
黒崎君は机につっぷしたまま動かない。
「大丈夫だったの?」
黒崎くんの眼鏡を壊しにかかる人なんて相当空気の読めない人間に違いない。
全身どす黒いオーラを纏っている黒崎君の怒り全開モードが容易に想像できて恐ろしくなった。
「・・・・ってか、神代とどうだったんですか?」
「は?」
急に話が変わったことに驚いて変な声が出た。
「は?、じゃないし。」
眼鏡をかけてないせいなのか、
いつもの敬語が少し崩れて乱暴な言い回し。
「神代君?
どうもなにもないよ?」
「そんなことないでしょ。
どきどきしてたんじゃないんですか?」
・・・う。
「大体、黒崎くんが変な事言いだしたから意識しちゃってどきどきする羽目になったんでしょ。」
「そう?」
あっけない返事。
「そうだよ、今日一日一緒に過ごしてみたけど、やっぱり神代君ってすごく格好いいし・・・。」
ハハ・・と笑い声が聞こえた。
「格好良かったの?」
「うん、なんか色々スマートなの。学校でもモテるって聞いてたけど、そうなんだろうなって感じた。」
「だから、わたしのことなんてやっぱり好きじゃないと思う。・・・って言いたい訳?」
突っ伏していた頭を上げたかと思うと、
急に起き上がって缶チューハイの蓋を空ける。
プシュッと炭酸の抜ける音がして、中身があふれ出たのが見えた。