第15章 喧嘩
炭治郎は連絡のつかなくなってしまった勇姫に手紙を書くことにした。
指令に合わせてあちこち動く隊士に手紙を届けるのは困難である。鴉の負担を考えて炭治郎は躊躇していたのだが、それも重々解った上で「すまない。頼む。」と鎹鴉の足に手紙を括り付けた。
「マァ、弟子ノ為ダカラナ。」と承諾してくれてホッとした。
「勇姫に届くといいけど…」
飛んでいく鴉を見ながら呟いた。
勇姫は叔父の家に宿泊をしていた。
仕事で外泊する時もあるが、帰れる日はここに帰ってきていた。
この家には昔住んでいたこともあり、自宅ではないものの勇姫がほっと出来る場所である。道場もあるから鍛錬も出来る。叔父も叔母も勇姫の滞在を喜んでくれた。
ある日の朝、仕事から帰宅すると自室の障子をコツコツと叩く音がした。開けると炭治郎の鴉。足に手紙を付けていた。
「よくここがわかったね。凄いね。」
勇姫は足から手紙を外し「ありがとうございます。」と頭を下げた。
暫くその場にいる鴉に、「返事を届ける時は私の鴉にお願いするから大丈夫だよ。炭治郎は蝶屋敷にまだいるんだよね。」と言うと、炭治郎の鴉は「…ワカッタ」と飛んでいった。
勇姫は蝶屋敷に行かなくなってからの間、炭治郎のことを考えないようにしていた。今までに浴びたことの無い態度と言葉をただ一歩的にぶつけられ、混乱したし怒ったし、何より悲しかった。
何がそうさせたのかもわからないので、距離を置くということしか出来なかった。
そこへ届いた炭治郎からの手紙。
少しためらった後、そっと開いた。
『巽 勇姫 様
先日の非礼をお詫びしたく存じます。
直接お会いしてお話をしたいと思いますので、大変恐縮では御座いますが、蝶屋敷まで御足労願えたらと思い筆をとった次第で御座います。
貴女が息災でおられるかが気がかりで憂愁の想いにて過ごしております。
何卒、私の願いをお聞き入れくださいますよう、伏してお願い申し上げます。
竈門 拝』
想像していたより随分と固い文章だった事に勇姫は驚いた。
「憂愁の想いだってさ…」
言葉を探しながら一生懸命手紙を書く炭治郎の姿を想像し、少し微笑んだ。
決して巧くはないが、その丁寧な字に炭治郎らしさを感じた。