第99章 信頼
東の海に大きな海賊船が一隻浮かんでいた。
甲板には大小様々な積み荷が転がり、その中身をぶちまけているものもある。
海賊たちは溢れた宝飾品や金貨の袋、貴重な交易品などを乱雑に仕分け、時には得意そうに掲げながら略奪品の整理を行っていた。
その様子を一人の男がデッキから満足そうに見下ろす。
ダークレッドのドレッドヘアを後ろに流し、分厚い拳を手甲で包んだ男は今東の海で名を挙げつつある海賊だった。
その名をドレッド。行き交う商船を主に狙い流通を麻痺させるだけでなく、見栄えの良い女子どもをさらっては闇市に流すといういわゆる人身売買を行う海賊として海軍から目をつけられていた。
「今日の稼ぎも上々だな」
「お頭!船が見えます!」
甲板で光り輝く金銀を眺めながら満足感に浸っているドレッドの元へ船員が駆け寄る。
顔すら向けず、ドレッドはどんな船だと短く問うた。
「それが、小船でして。無印の黒旗を掲げていますが、民間の船かと」
「小船だぁ?あんまり稼ぎもなさそうだな。んなもんいちいち報告すんじゃねぇ。放っておけ」
ひらひらと手を振り追い払おうとするが、ある単語にぴたりとその腕を止める。
「……黒旗?」
「は、はい。ちょうど海賊旗を掲げるように、旗を」
ドレッドは近頃この東の海で海賊船を次々と襲う小船の噂を思い出す。
賞金稼ぎとも海軍とも違う、黒旗を掲げた奇妙な小船。
「針路を取れ。その小船に接近する」
指示を出してから、にやりと笑う。
短い間に多くの海賊船を落としているのだ。きっと実入りも良いに違いない。
「せっかくだ、全部頂戴してやろうじゃねぇか」