第91章 自覚
独立した盃兄弟だが、冬場だけはダダン一家で風呂を借りている。
夏場は川で水浴びし過ごしていたが、さすがに秋を過ぎてからはそういう訳にはいかない。
水琴のやや強引な誘いにより、少なくとも三日に一度は風呂を借りることが日課となっていた。
本日はその入浴日。三人が出た後、一日の疲れを癒すため水琴はゆっくり湯船に浸かっていた。
日頃は家事や細々とした雑用を一手に引き受ける下っ端の水琴だが、風呂ばかりは他よりも優先して使用していいことになっている。
既に家族と認識されている故、日々の仕事に対する感謝の気持ちと言えば聞こえはいいが、単に水琴以外の人間があまり入浴に関して頓着していないからというのもある。
汗をかきやすい夏場はともかく、冬は平気で一週間ほど入らずにいる者もいるほどだ。
元の世界と違い、ここでは入浴の準備は手間がかかる。なるべく重労働を増やしたくないというのが本音だろうが、現代の衛生観念を持つ水琴からすればもう少し気にしてほしいと思う。
あまりにも目に余る者を無理やり入浴させているうちに、気付けば風呂関連に関しては水琴が責任者のような形になってしまった。
まぁ、自由にしていいのは気楽だ。権限を得たことで風呂環境も以前より随分と整えられた。
ゆっくりと手足を伸ばし、水琴は凝り固まった筋肉をほぐす。
沈みこまないよう注意しながら、出来る限り水琴は温かな湯の中に身体を沈めた。
どたどたと壁の向こう側で騒がしくはしゃぐ三人の声がする。
声の感じから、またルフィがエースにからかわれているんだろう。
暴れすぎてまた何か壊さないといいけど、とぼんやりと思った時だった。