第84章 ルフィ
日が落ちる前にエースと共に家路へと着く。
ドアを開ける水琴をパタパタと小さな足音が出迎えた。
「水琴、どこ行ってたんだよ!今日はどんな話を__あっ、エース!」
「げっ」
エースを見つけ喜びの声をあげるルフィにエースは表情を歪めた。
「なぁなぁ、どこ行ってたんだ?今度はおれも連れてってくれよ!」
「うるせーな!ついてくんなよっ」
「あ、待てよー!」
「ルフィ」
逃げるように立ち去るエースを親鳥を追う雛のように追いかけようとするルフィを呼び止める。
なんだ?と振り返るルフィの横にしゃがみこみ、水琴は視線を合わせエースがごめんね、と二ヶ月前と同じ言葉を繰り返した。
「でもね、エースも悪気がある訳じゃないんだ」
ただ、戸惑っているだけ。
ルフィの真っ直ぐな気持ちにどう応えていいか分からないだけだ。
「だから、あんまりめげずにこれからもよろしくお願いね」
水琴の言葉にルフィはめげたりなんかしねぇさ!と朗らかに笑う。
「それに、水琴によろしくされなくったって、平気だぞ」
だって、”おれが”、エースと友だちになりたいんだ!
そう力強く告げるルフィの言葉に水琴は軽く目を見開いた。
「__そっか」
微笑み、そしてルフィを見る。
彼の表情に迷いは一切見られなかった。
「うん。そうだね」
七歳の子にあの当たりはきつかろうと気にしていたが、どうやら余計なお節介だったようだ。
水琴が思うより、ルフィはずっとずっと強く、たくましい。
「あ、エース!」
追いかけようとしていたことを思い出したのか、慌ててルフィは踵を返し廊下の奥へと駆けていく。
賑やかな音を響かせながら去っていく小さな背を、水琴は今度こそ和やかに見送った。