第84章 ルフィ
エースが海賊を志して、あっという間に五年の月日が流れた。
もう既に元の時代よりも長い時間をここで過ごしてしまっていることになる。
__向こうではどうなっているのかなんて、考えたくもない。
「……おい」
遠い目をしていた水琴の耳に不機嫌なエースの声が入る。
「いつまでそうしてんだよ。早く退けよ」
「えー。もうちょっと……」
「大体ハンカチ取れば勝ちなのになんでおれごと捕まえてんだよ!」
「だって抱き心地良いんだもーん。こういう時くらいしか抱きつかせてもらえないし」
「ふざけんな!放せ!」
照れてる照れてる。
「かわいーなー!もう!」
「ぐおっ?!ちょ、水琴止めろ!!放せって言ってんだろ!!」
更にぎゅーっと強く抱きしめる。
愛しいその小さな身体を抱きしめて、くすくすと水琴は笑った。
***
「あ、エース」
本日の稽古を終え、狩りに出かけようとするエースを呼び止める。
「今日もサボのところ行く?」
「あァ」
「じゃあサボにこれ渡しておいて」
そう言って砂時計の横に置いておいた包みを渡した。
軽い感触のそれを手に乗せてエースが首を傾げる。
「なんだよこれ」
「前言ってたお菓子。作ってあげるって言って全然渡せてなかったから」
「ふーん……」
「……エースの分もあるから、ちゃんと二人で分けるんだよ」
ぎくりと身体を強張らせる。
口元のよだれで考えていることなどばればれだ。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「おう!行ってくる」
にかっと笑ってエースは森へ消えて行く。
最初出会ったばかりの頃はあんな風に笑ってくれるなんて思ってもいなかった。