第80章 それぞれの青い鳥
「はい、出来上がり」
食べてみて、と差し出された器をエースとサボは受け取る。
恐る恐る一口スプーンで掬い口に運べば、氷の冷たさと甘いシロップが一瞬で口の中に広がった。
「うまい!」
「この季節にはピッタリだなぁ!」
「でしょう?あ、かきこまないようにね。頭痛くなるよ」
歩き回り喉が渇いていたこともあって一気に食べてしまう。
あっという間に小さな器は空っぽになってしまった。
「凍らせた果物を削ってかけても美味しいんだよ」
「水琴、これなんだ?」
「それは練乳。甘くて美味しいよ」
「おれメロンもーらいっ」
色々な組み合わせを考えながら三人で器をつつく。
水琴がたくさん用意してくれていた材料は瞬く間に消えていった。
「分かってはいたけど、すごい食べっぷり……」
「なァ。結局宝ってかき氷の事だったのか?」
準備した甲斐はあるけど、としみじみと呟く水琴にエースは問い掛ける。
「確かにうめェけど」
「こんだけ食べといて文句言うならもうエースには作ってあげない」
「ばっ、文句なんて言ってねェだろ!」
「でも不満がありそうじゃございません?」
別に文句という訳では無い。
ただ、お宝と聞いて思い浮かんだのはやはり金銀財宝とか、見たこともない希少価値の高いものとかそんなものだったのは確かで。
よく考えれば仲間とはぐれたコイツがそんな大層なもの持っているわけないのだが、期待していただけに多少拍子抜けしたのは否めない。
………まぁ、だけど。
未だ空に大きく架かる虹をそっと見上げる。
そして、なんとも幸せそうに自身のかき氷を頬張る水琴をじっと見つめた。
「なに?お代わりならまだあるよ」
「ちげェよ」
「水琴、今度これかけてみていいか?」
「いいよ。これも使うと美味しいよ」
かつて、たった独りで過ごしていた日々をエースは思い出す。
いつの間にか日常となった、誰かと過ごすことが当たり前となったこの日々は。
確かに”青い鳥”で”宝”なのかもしれないなと思いながら。
エースは甘い最後の一口をゆっくりと口に運んだのだった。